町田暁雄さんの「刑事コロンボ読本」(個人誌)を別にすれば、 今まで、ありそうでなかった日本オリジナルの「刑事コロンボ」本。
ファンが待ち望んだガイドブックが、ついに2003年、別冊宝島「刑事コロンボ 完全事件ファイル」として書店に登場しました。 主筆の町田さんをはじめ、執筆陣が皆コロンボ・ファンという、まさに「ファンによるファンのための一冊」です。
2月3日の発売以来、売れ行きも好調で(amazon.co.jpでは初刷品切れ状態)、めでたく増刷が決定!

しかし何故今、「刑事コロンボ」なんでしょう。 そりゃあ新作も(時々)放映されるし、文庫も(時々)出版されはしますが…。
そこで、「完全事件ファイル」出版までの舞台裏を、町田さん、そしてイラストを担当された “えのころ工房”の金太郎さん・草吉さん、編集企画プロダクションの(株)アッシュ・中野真一郎さんに語っていただきました。
場所は「完全事件ファイル」にも紹介されている 相模大野のカフェレストラン、ラシエット(2008年12月に閉店されたそうです…)。
「チリビーンズ 刑事コロンボ風」とビールをいただきながらの座談会となりました。(2004/2/23実施)
聞き手:なぽべん
別冊宝島としての企画は、いつごろから、どういうかたちでスタートしたんでしょうか?

町田
「『刑事コロンボ読本』を書いている時に、もしコロンボを扱った(書店売りの)本が出版される時には、自分も絡みたいと思っていたんです。それで『読本』をいくつかの出版社に送りました。改訂版を作った時だから、1年前くらいかな。そのうちの一社が宝島社でした」

中野
「ちょうどその頃、ウチ(アッシュ)は宝島さんと、別のムックの話を進めていたんですが、編集前にいろいろとクリアしなければいけないことがありまして、動き出すまでにちょっと時間ができてしまったんです。じゃあ、その間に何かもう一冊やりましょうということになって。
何かないか、と宝島の編集の方に聞かれて、コロンボ物がやりたいんです、と・・・個人的にコロンボのファンで、改訂前の『読本』(1999)も買っていたので、町田さんに加わっていただければ、すぐに始められる企画だと思っていたら・・・」

町田
「宝島社にも私が送った『読本』があって、話が進み始めた、ということです」

なるほど、コロンボを扱ったムックが、唐突とも思えるこの時期に出たのは、 『読本』というベースとなるコンテンツがあったから、というだけではなく、 タイミングの問題でもあったわけなんですね。

町田
「そうですね。その時に町田が執筆兼監修、執筆陣も私が推薦していい、という願ってもないお許しをいただけました。そこで、川守田游さんはじめ、作家の早見裕司さん、エラリー・クイーン研究家の飯城勇三さん、それになぽべんさんなど、以前から、いわば<コロンボ仲間>だった方々に参加をお願いしました。
加えて、自分がファンだったお2人――ミステリ作家の大倉崇裕さんに巻頭のカラーページを、 小山正さんにレヴィンソン&リンクのページをお願いしてご快諾いただきました。 何とも素晴らしいというか贅沢な執筆陣だと思います」

写真ではなくイラストを使用された理由というのは・・・

中野
「版権を扱っているところに写真の使用料を確認したら、一点*(※)万円が相場だといわれたんです」
  (※)びびる数字です・・・出せないんですが

一点、とは、写真一枚、ということですか?一枚*万円?

中野
「そうです、表紙に使っても、中ページに使っても、とにかく一点*万」

町田
「その値段を聞いて、どうしようかどうしようかって言っている時に、“えのころ工房”のお二人のことを思い出しました。ムックの話の数ヶ月前に、彼らから改訂版『読本』の注文をメールでいただいてたんです。その文末のURLに載っていたマンガを見て、彼らのファンになってしまったんですね。それでもしかしたら・・・と、ムックのイラストをお願いしてみたわけです。お二人ともコロンボは好きだということだし。
最初はプレゼン用に何点かマンガ調のものを描いていただいてたんですが、何回目かのプレゼンの時に、“オマケ”としてリアルなタッチのものを描いてくれて。表4(裏表紙)のコロンボの顔です。それを見て“ひぇー”ですよ。こういうのも描けるのかと。
コミックタッチとリアルタッチの両方あれば、もう怖い物はないだろうと」

中野
「最初は『読本』に挿絵が入る程度のものを考えていたんですけど・・・」

▼殆ど全ページにイラストが…
町田
「まさかここまでイラストが沢山入るとは思わなかった(笑)」

イラスト一点*万の価値があるってことですよね。

町田
「贅沢な本だよなぁ・・・」

金太郎(えのころ工房 コミックタッチ担当)
「僕らもこんなに(総数約200点)描くとは思ってなかったです(笑)」

各エピソードごとに載っている、コミックタッチのイラスト、面白いですよね。

金太郎
「名シーンみたいな感じで、“ちょこっと”入れるくらいに考えていたら、 だんだんイラストのスペースが大きくなって・・・」

中野
「大きくしたら、それがすごく良かったんで、これでいこうや、と」

草吉(えのころ工房 リアルタッチ担当)
「きちんと仕事を請ける前は、冗談で親戚リストみたいなのは描きたいね、なんて言ってたんですけどね」

冗談ではなくなりましたね。

金太郎
「あれを描くために、3ヶ月コロンボ漬けでした。DVDを何度も見返して・・・今はイラストのミスを見つけてしまいそうで、コロンボ、見られない(笑)」

ゲストスター紹介に載っているリアルなイラストも、好評ですよね。

草吉
「R.カルプとかJ.キャシディみたいに何回か登場しているゲストスター、表3の一覧では 同じイラストを流用していますが、本当は全部描き分けたかったんですよ。時間があれば、だったんですけど」

一人描くのにどのくらいかかるんですか?

草吉
「色鉛筆で描くんですけど、最初は1人8時間くらい、15人くらい描くうちに3時間に短縮できました。
実は、インタビューを受けていただいた石田太郎さんにさし上げるために、色紙にP.フォークのイラストを描いたんですが、『石田さんに見せる』ということへの緊張感もあって、すごく苦労したんですね。でもその時の苦労があって、コツをつかめたみたいです。後半はもっと短くできました」

描くのが難しかったゲストスターはいますか?

草吉
「一番簡単だろうと思っていたレナード・ニモイが、一番難しかったですね。なかなか似ないんです。 それで町田さんに愚痴言っちゃったりして・・・『ニモイが似ないんです』って(笑)」

町田
「(掲載されたイラストを見ながら)真っ正面からのレナード・ニモイって、珍しいよね」

草吉
「斜め45度からの角度で3枚くらい描いたんですけど、金太郎の描くマンガっぽくなっちゃって。 ほっぺたの立体感が出ないんです。で、思い切って丸みをつけざるを得ない正面の角度にしたんですよ。
あと苦労したのは『ロンドンの傘』の2人。2人だから2倍の手間が・・・(笑)」

町田
「2人いると、犯人紹介スペースの文字量の問題もあるから、サイズも大変だったみたいだよね」

草吉
「抱き合ってるシーンがあったので、それを参考にしました。なるべく小さなサイズにおさまるように、(参考にした画面より)もっと2人をくっつけて・・・。だから実際はあそこまでラブラブじゃないんですけど(笑)
それから野沢那智も・・・」
ラシエットは、小田急線・相模大野駅北口、赤い門が目印

パティオには、アンティークなブランコ

明るく落ち着いた店内には、グランドピアノも

「コロンボの好物なら…」と注文されるお客さんも多いとか

チリ…ごめんなさい、クラッカーを入れる前のチリも撮ったんですが、ミスしました… (これじゃクラッカーだけみたい)…
タマネギの甘みが引き立てるチリのスパイシーな味わい、しつこさを感じさせないチーズのトッピング、 金時豆の存在感…おかわりできるくらい、さっぱりと食べられる一品です。

当日集まっていただいた皆さん。左でお子さんを抱いているのが、ラシエットのママさん。 大のミステリー・ファン。3年前にラシエットをオープンする前は、レンタルビデオ店を 経営、毎日自分でコロンボを借り出して見ていたとか。
「豆料理をメニューに入れようと考えていた時に思い浮かんだのが、コロンボが食べていた チリだったんです」
自家製ベーコンステーキやフィッシュ&チップス、ケーキなど、ランチもディナーも楽しめるお店です。

野沢那智?

金太郎
「すみません、俳優名じゃなくて、声優名で覚えちゃってるんで・・・(笑)」

町田
「ロディ・マクドウォールね」

草吉
「その人も、もっと魅力的に描きたかったなぁ」

逆に一番簡単だったのは・・・

草吉
「この人です(と、ドナルド・プレザンスを指さす)」

禿げてるから?

町田
「身も蓋もない言い方(笑)」

草吉
「プレゼンの時に一度描いていたので・・・。でもやっぱり女の人の髪とか、男の人の髭は大変でしたね」

中野
「ファンならではの思い入れのあるイラストで、むしろ写真よりよかったと思います」

町田
「写真も、どんな写真が借りられるか分かりませんしね」


当日はマルチ映像ライターにしてVoCFの重鎮・川守田游さん、「三人目の幽霊」「七度狐」「ツール&ストール」の著者で、二見文庫「殺しの序曲」「死の引受人」の訳者でもあるミステリー作家・大倉崇裕さんにもお越しいただきました。

川守田
「今回は石田太郎さんのインタビューを担当させていただきました。
10年目にしてこれが初めてと思われるコロンボファン向けの石田太郎インタビューなので、 もちろん担当できたことを光栄に思っています」

昔からテレビで見ていた人と直接会って、しかもインタビューというのは、嬉しいことですよね

川守田

「何しろ面と向かって、あの石田さんから『あんたが殺ったんだろう!?』なんてコロンボ調で言われる展開になって、 嬉しいというより怖かった・・・(笑)」

川守田さんと町田さんとは“安葉巻”がきっかけで知り合われたんですよね?大倉さんとは・・・?

大倉
「私も“安葉巻”に載っていた『読本』を注文したのがきっかけですね」

町田
「そうそう、大倉さんは当時出版社にお勤めだったんですよね」

今回、執筆に参加されてのご感想は?

大倉
「それはもう、楽しかったです。『仕事だ』と言って、大きな顔して一日中、コロンボを見ていられましたし(笑)」

町田
「万一(笑)、増刷分も完売したりしまして、続刊が出せることになった際には、またお手伝いいただけますか?」

大倉
「もちろんです。コロンボ警部はもっとも好きな名探偵ですから」

町田
「ところで、大倉さんの訳された『殺しの序曲』、訳者名は円谷夏樹になってますよね?」

大倉
「そう、私あの名前で“小説推理新人賞”を取ったんですよ。でもその時は、作品が雑誌に掲載されただけだったので、私の初の単行本は『殺しの序曲』ということになります。『完全事件ファイル』の執筆者プロフィールにも書いてますが、私が一番好きなエピソードでして」

川守田
「二見さんには『愛情の計算』も忘れないでほしいよね(偏愛の一本:『愛情の計算』)」

町田
「大倉さん、(『愛情の計算』のノヴェライズ)やっていただけますか?」

大倉
「いいですよ、書いちゃってから持ち込みで・・・(笑) アリバイ工作は何もロビー(※)を使わなくても、搦め手から行けばできるんじゃないかと」
 ※劇中登場するロボット、MM7のこと。元ネタは『禁断の惑星』

川守田
「ロビーを使うとしたら、また別の版権の問題もあるし・・・あ、そうか、ロビーじゃなくて、ガンダムとかにしちゃえばいいのか(笑)」

大倉
「日本にはこういうものがあるんだと(笑)」

じゃあ、それは同人誌でパロディにしてください(まあそれもサンライズが許してくれないだろうな・・・)

そんなわけで、「完全事件ファイル」の巻末、町田さんがプロフィールにも書かれていたとおり、コロンボ同人誌の企画も進行中です。お楽しみに。



「安葉巻の煙」トップへ


閉じる