殺人処方箋/PRESCRIPTION: MURDER
米1968/2/20 日1972/8/27

監督 リチャード・アーヴィング
脚本リチャード・レビンソン
ウィリアム・リンク
ゲストスター ジーン・バリー
声:若山弦蔵/瑳川哲朗
犯人の職業精神分析医
被害者妻/キャロル
殺害方法扼殺

現在見られるテレビ放送版、LD版では若山氏がジーン・バリーを演じているが、 NHKでの放送時は瑳川哲朗氏が声を当てていた。

Introductionby T.O.

精神科医のフレミング(ジーン・バリー)と夫人、キャロル(ニナ・フォックス)の間は冷え切っている。 原因の一つはフレミングの浮気。駆け出しの女優、ジョーン(キャスリン・ジャスティス)との関係は 彼女が患者としてフレミングのもとを訪ねて以来続いていた。
しかしおいそれと離婚とはいかない。資産のほとんどはキャロルの名義だからだ。
彼はジョーンを替え玉にして強盗殺人を装ったキャロル殺害を企てる。

フレミングは自宅でキャロルの首を絞めた後、キャロルの服装をしたジョーンと共に旅行に出る (ふりをする)。空港に到着すると航空機に乗り込んだ時点で一芝居打つ。
フレミングはそのまま外国へ旅立ち、ジョーンは彼のマンションに戻りキャロルの服を 玄関前のクリーニングの袋に詰め込むとその場を立ち去った。フレミングが帰国したとき、 キャロルは夫の留守中におきた強盗殺人事件の被害者となっているはず。
ところが彼の前に現れた刑事(コロンボ!)に聞かされたのは夫人は意識不明で入院中ということ。
病院に駆けつけるフレミング。面会謝絶の状況でキャロルの最後の言葉は夫の名を呼ぶものだった。 フレミングとコロンボの頭脳戦が始まる。

テレビ界が生んだ'70年代最大の“世界的”スーパースター(言い切ってしまおう!!) コロンボ警部(正確には警部補)登場の記念碑的作品。
初期の007やソール・バス(タイトル・デザイナー)の作品を連想させるようなオープニング。 フレデリック・ノット作品(『暗くなるまで待って』『ダイヤルMを廻せ』等)のような緻密な構成の脚本。 スタッフの力の入れようがうかがえる出来栄だ。


Impression & Triviaby なぽべん

同名舞台劇のテレビ化。単発モノの予定で、原題のタイトルには "COLUMBO"とはない。
『殺人処方箋』は、犯罪者ロイ・フレミング(テレビ版ではレイ・フレミング)を 主役として書かれていた(舞台のオリジナルキャストでは、フレミングを ジョセフ・コットン、コロンボはトマス・ミッチェルが演じた)。
レビンソンとリンクは、コロンボのモデルとなった“人物”の一人に『罪と罰』の ポルフィーリィ検事を挙げている。『罪と罰』で、老婆を殺したラスコーリニコフは 精神的重圧から衰弱してゆくが、ラスコーリニコフの悪の部分だけを背負い、 殺人を犯しながら堂々と振る舞うフレミングより、おびえて毎日を過ごす共犯者・スーザンや、 事件の核心に近づいてくるコロンボに、見る側が感情移入し易いのも当然の話で、 舞台版上演の際に主演のジョセフ・コットンよりも、トマス・ミッチェルに喝采が 湧き起こったという事実も頷ける。
テレビ版のフレミングは舞台版よりも狡猾で(舞台版では、なんとフレミングは自供しようとするのだ)、ますます見る側がコロンボに傾くように描き直されている。 これはレビンソンとリンクが、舞台版の喝采の大きさで確認した観客の心理に 影響されてのことかもしれない

後にシリーズ化された時に、葉巻やコートなど、コロンボのトレードマークとなるものの殆どが、 既にこの作品に収められている。
特にフレミングが妻の入院している病院を訪れるシーン。日本での放映時には時間の都合か、 スッパリとカットされていたこのシーンで、コロンボは後に定着してゆく台詞や仕草を 初めて見せる(現在は完全版のビデオ、LD、DVDで見ることができる)。 「カミさん」の話、自分のペンが見つけられず人に借りる、 「もうひとつだけ…(Just one more thing)」という質問・・・。
そしてラスト、ブラフに近い犯人の落とし方。
髪はサッパリと小ぎれいだが。

タイトルロールは犯人の職業に合わせてか、ロールシャッハテストのパターンが使われている。
(タイトルロールが凝っているものとしては、この作品と、「第三の終章」が挙げられる。)

犯人のドクター・フレミングは自分のマンションで妻を殺す。外部からの侵入者の犯行と見せ かけるため、バルコニーの外からガラスを割るカットがあるが、この時、背景の「書き割り」 に彼の影が映っている。
1997年記/2001年改